アオザメ

海産物情報

アオザメ(青鮫、英名: Blue Shark、学名: Prionace glauca)は、ネズミザメ目メジロザメ科(※分類体系によっては異なる場合あり)に属する大型のサメです。その名の通り、生きている時の背中側は鮮やかなインディゴブルー、側面は明るいブルー、腹側は白色という美しい体色を持ち、外洋を高速で泳ぎ回る優雅な姿から「海のグレイハウンド」とも呼ばれます。

  • 分類: ネズミザメ目 メジロザメ科 アオザメ属 (※分類には諸説あり)

  • 学名: Prionace glauca (Linnaeus, 1758)

  • 英名: Blue Shark

  • 別名: ミズブカ、ハダカ、クロカワ(地域や鮮度による呼び名)

  • 形態:

    • 体長: 一般的に成魚で2~3メートル、最大で約3.8メートルに達する個体も報告されています。雌の方が雄より大きくなる傾向があります。

    • 体型: 細長く流線型の紡錘形。非常に効率的に泳ぐことができ、長距離回遊を得意とします。

    • 体色: 生時は鮮やかな青色ですが、死後や水揚げ後は急速に退色し、灰色っぽくなります。これが「クロカワ」と呼ばれる所以でもあります。

    • 歯: 三角形で縁には細かい鋸歯(ギザギザ)があり、獲物を捕らえて切り裂くのに適しています。

    • 鱗: 皮膚は非常に小さな楯鱗(じゅんりん)で覆われており、手触りが滑らかなため「ハダカ」とも呼ばれます。

    • ヒレ: 長く鎌状に伸びた胸ビレと、非対称な形状の尾ビレ(上葉が長い)が特徴的です。

  • 分布と生息環境:

    • 分布域: 全世界の熱帯から温帯の海域に広く分布し、最も広範囲に生息するサメの一つです。太平洋、大西洋、インド洋の外洋域で見られます。

    • 生息深度: 主に水深350メートル程度までの表層から中層に生息しますが、より深く潜ることもあります。

    • 好適水温: 比較的水温の低い場所を好み、7~16℃の範囲で最も多く見られますが、20℃以上の暖かい海域にも適応します。

  • 生態:

    • 食性: 肉食性で、主にイカやタコ、アジ、サバ、イワシなどの小~中型の魚類、甲殻類などを捕食します。時には海鳥を襲うこともあります。

    • 繁殖: 胎生(Viviparous)で、メスは体内で卵を孵化させ、栄養を与えて仔ザメを育てます。妊娠期間は9~12ヶ月とされ、一度に4~135尾(平均25~50尾)もの多数の仔ザメを産む、多産なサメです。

    • 回遊: 性別や成熟度によって回遊パターンが異なり、非常に長距離(数千キロメートル)を移動することが知られています。繁殖や餌を求めて移動すると考えられています。

2. 漁獲と資源:世界の海からの恵みと課題

アオザメは、その広範な分布域から世界中の漁業で漁獲されていますが、多くの場合、マグロやカジキなどを対象とした延縄漁や、刺し網漁、巻き網漁などで意図せず混獲されることがほとんどです。アオザメのみを主対象とした漁業は限定的です。

  • 主な漁獲方法:

    • 延縄(はえなわ)漁: マグロ・カジキ類を狙う漁業で最も混獲されやすい漁法。長い幹縄に多数の枝縄と針を付け、広範囲の魚を狙います。

    • 刺し網(さしあみ)漁: 海中にカーテンのように網を張り、通過する魚を絡め取る漁法。

    • 巻き網(まきあみ)漁: 魚群を巨大な網で囲い込み、漁獲する漁法。

  • 漁獲量と資源状況:

    • 漁獲量: 正確な漁獲統計の把握は困難ですが、FAO(国連食糧農業機関)によると、混獲を含めると年間数百万尾、重量にして数万トン規模のアオザメが漁獲されていると推定されています。日本は主要な漁獲国の一つです。

    • 資源状況: アオザメは比較的成長が早く、多産であるため、他の大型サメ類と比較すると資源の回復力は高いと考えられています。しかし、世界的な漁獲圧の高さや混獲による影響は無視できず、資源量の減少が懸念されています。

    • IUCNレッドリスト: 国際自然保護連合(IUCN)は、2019年にアオザメを**「準絶滅危惧(NT: Near Threatened)」**に分類しました。これは、現時点では絶滅の危機は高くないものの、将来的に危機種に移行する可能性があることを示唆しています。特に大西洋など一部の海域では資源状態の悪化が報告されています。

  • 持続可能性への取り組み:

    • 資源管理: 各国の漁業管理機関や、地域漁業管理機関(RFMOs)によって、漁獲枠の設定、サイズ制限、混獲回避策の導入などが進められています。しかし、外洋を広範囲に回遊するため、国際的な連携が不可欠です。

    • 混獲対策: サメが嫌う磁石を利用した漁具や、特定の深度にのみ針を設置するなどの混獲回避技術の開発・導入が進められています。また、リリース(再放流)時の生存率を高める取り組みも重要です。

3. アオザメの食用利用:味と栄養 – 淡白さの奥にある魅力

アオザメは、世界各地で食用として利用されてきた歴史があります。日本では、古くから「はんぺん」や「かまぼこ」などの練り製品の原料として重要な役割を担ってきました。近年では、その淡白でクセのない味わいと、高タンパク低脂肪なヘルシーさが注目され、多様な料理に活用されるようになっています。

  • 食文化:

    • 日本: 練り製品の原料が主でしたが、近年は鮮魚としての流通も増え、刺身、フライ、煮付けなどで食べられています。宮城県気仙沼市はアオザメの水揚げが多く、サメ料理が地域食として根付いています。

    • 世界: ヨーロッパ(特にスペインやポルトガル)ではステーキや煮込み料理、アジア(台湾など)ではスープや炒め物、南米ではセビーチェ(魚介のマリネ)など、様々な形で食されています。アフリカや南アジアの一部では干物としても利用されます。

  • 可食部位:

    • 身(筋肉): 主要な可食部。淡いピンク色で、加熱すると白くなります。筋肉はきめ細かく、水分が多いのが特徴です。

    • ヒレ: いわゆる「フカヒレ」として、主に中華料理の高級食材として利用されます。アオザメのヒレは、大型で品質が良いものが取れるとされています。

    • 軟骨: 骨は軟骨質で、特に胸ビレの付け根などは「梅水晶」や唐揚げなどの珍味として利用されます。コリコリとした食感が楽しめます。

    • 皮: 一般的には食用にされませんが、ゼラチン質を多く含みます。

    • 内臓: 肝臓(肝油)などが利用されることがありますが、一般の食用としては流通しません。

  • 味の特徴:

    • 風味: クセや臭みが少なく、非常に淡白な味わいです。魚特有の風味が苦手な人でも食べやすいとされます。

    • 旨味: 淡白ながらも、ほのかな甘みと上品な旨味を持っています。

    • 食感: 身は水分が多く、加熱するとややパサつきやすい傾向がありますが、新鮮なものはしっとりとしています。繊維質は少なく、柔らかい食感です。フライなどにすると、ふっくらと仕上がります。

  • 栄養成分:

    • 高タンパク低脂肪: 鶏むね肉や白身魚と同様に、良質なタンパク質が豊富で、脂質が少ないヘルシーな食材です。ダイエット中や筋肉をつけたい人に適しています。

    • DHA・EPA: 青魚ほどではありませんが、血液をサラサラにする効果や、脳機能の維持・向上に役立つとされる不飽和脂肪酸(DHA、EPA)を含んでいます。

    • ビタミンD: 骨の健康維持に不可欠なビタミンDを含みます。

    • コンドロイチン硫酸: 軟骨に多く含まれる成分で、関節の健康維持に役立つとされ、サプリメントの原料としても利用されます。

  • 鮮度管理の重要性(アンモニア臭):

    • サメ類は、体内に尿素を多く含んでいます。死後、時間の経過とともに細菌などの働きで尿素が分解され、アンモニアが発生します。これが、サメ特有のツンとした臭い(アンモニア臭)の原因となります。

    • アオザメを美味しく食べるためには、水揚げ後の迅速な血抜きと冷却処理が極めて重要です。鮮度が良ければ、アンモニア臭はほとんど感じられません。市場に流通しているものは適切に処理されていることが多いですが、購入後も早めに調理することが推奨されます。

4. アオザメの調理法:淡白さを活かす多彩なレシピ

アオザメの淡白な味わいは、様々な調理法や味付けに適応します。鮮度管理と下処理が美味しさの鍵を握ります。

  • 下処理のポイント:

    • 血抜き: 購入した切り身でも、表面に血が残っていればキッチンペーパーで拭き取ります。可能であれば、購入時に血抜きがしっかりされているか確認しましょう。

    • アンモニア臭対策:

      • 塩水や流水で洗う: 表面のぬめりや臭いの元を洗い流します。

      • 酒や牛乳、ヨーグルトに漬ける: 臭みを和らげる効果があります。

      • 香味野菜やスパイスを使う: 生姜、ニンニク、ネギ、ハーブ、カレー粉などは臭みをマスキングし、風味を加えます。

      • マリネ: 酢やレモン汁、ワインなどに漬け込むことで、臭みを抑え、身を柔らかくする効果も期待できます。

    • 水分管理: 水分が多い身質なので、調理前にキッチンペーパーで水気をしっかり拭き取ることが、水っぽさを防ぎ、美味しく仕上げるコツです。特に揚げ物や焼き物では重要です。

  • 代表的な調理法:

    • 刺身、寿司: 鮮度が抜群に良いものに限られます。適切な処理がされたものは、臭みがなく、淡白ながらも上品な甘みと、もちっとした食感が楽しめます。薄造りにして、ポン酢やもみじおろし、生姜醤油などでいただくのが一般的です。

    • フライ、ムニエル: 淡白な身と油の相性が良く、定番の調理法です。

      • フライ: パン粉をつけて揚げると、外はサクサク、中はふっくらと仕上がります。タルタルソースやウスターソースがよく合います。

      • ムニエル: 小麦粉をまぶしてバターでソテーします。レモンバターソースやクリームソースなど、コクのあるソースと好相性です。

    • ソテー、ステーキ: シンプルに塩胡椒で焼き、ハーブやガーリックバターで風味付けするのもおすすめです。焼きすぎるとパサつくので、火加減に注意が必要です。

    • 煮付け、照り焼き: 淡白なため、醤油、みりん、砂糖、酒などで甘辛く、しっかりと味付けする調理法に向いています。生姜を加えると臭みが消え、風味が増します。

    • 竜田揚げ: 醤油、酒、生姜などで下味をつけ、片栗粉をまぶして揚げます。サクッとした衣とジューシーな身が楽しめます。

    • 練り製品: はんぺん、かまぼこ、さつま揚げなどの原料として利用されます。アオザメの白く弾力のある身質が、練り製品に適しています。

    • フカヒレ: 胸ビレ、背ビレ、尾ビレなどを乾燥または冷凍させたもの。主に中華スープの具材として利用されます。独特の食感が珍重されますが、近年は倫理的な観点や資源保護の観点から、代替品への移行も進んでいます。

    • 軟骨料理:

      • 梅水晶: サメの軟骨(主に胸ビレ付け根など)を千切りにし、梅肉と和えた珍味。コリコリとした食感が特徴です。

      • 軟骨唐揚げ: 軟骨に下味をつけて唐揚げにしたもの。おつまみとして人気があります。

  • 世界の料理例:

    • バングラデシュの干物「ロッシュ」: アオザメなどのサメを干物にしたもの。カレーなどの煮込み料理に使われます。

    • スペインのサメ料理: “Cazón en adobo”(カソン・エン・アドボ)など、サメをマリネしてからフライにする料理が有名です。

    • 台湾の「鯊魚煙」: サメ肉を燻製にした料理。

5. アオザメに関する注意点:安全に美味しくいただくために

アオザメを食べる際には、いくつか注意すべき点があります。

  • 鮮度管理の徹底: 最も重要なポイントです。鮮度が落ちるとアンモニア臭が発生し、風味が著しく損なわれます。購入する際は信頼できる販売店を選び、なるべく早く調理・消費しましょう。臭いが気になる場合は、前述の下処理を試すか、調理を控える判断も必要です。

  • 寄生虫: 他の魚介類と同様に、アオザメにも寄生虫(アニサキスなど)が存在する可能性があります。

    • 予防策: アニサキスは加熱(70℃以上で瞬間、または60℃で1分以上)または冷凍(-20℃で24時間以上)で死滅します。刺身で食べる場合は、一度冷凍処理されたものを選ぶか、信頼できる専門家が処理したものを利用するのが安全です。目視で確認することも重要ですが、完全ではありません。

  • 水銀: マグロなどの大型魚と同様に、アオザメも食物連鎖を通じて体内にメチル水銀を蓄積しやすい魚種の一つです。

    • 注意喚起: 厚生労働省は、特に妊婦や妊娠の可能性のある女性に対し、メチル水銀濃度が高い可能性のある魚介類の摂取量について注意喚起を行っています。アオザメが直接名指しされているわけではありませんが、大型のサメ類であることから、摂取頻度や量には配慮することが望ましいでしょう。一般的な摂取量であれば過度に心配する必要はありませんが、偏った食べ方は避けましょう。

  • アレルギー: 稀にサメ肉に対するアレルギーを持つ人もいます。初めて食べる場合や、アレルギー体質の人は少量から試すなど注意が必要です。

6. アオザメの加工品とその他利用:食卓から健康、産業まで

アオザメは食用以外にも、様々な形で利用されています。

  • フカヒレ: 最も有名な加工品ですが、ヒレ採取のみを目的とした漁(フィニング)が国際的に問題視されており、持続可能な利用が求められています。

  • 練り製品: かまぼこ、ちくわ、はんぺん、さつま揚げ、魚肉ソーセージなどの重要な原料です。アオザメの身は、白度が高く、弾力(足)が良い製品を作るのに適しています。

  • フィッシュミール、魚油: 食用にならない部位(内臓、骨など)は、養殖魚の飼料となるフィッシュミールや、健康食品などに利用される魚油(肝油)の原料となります。

  • コンドロイチン硫酸: 軟骨から抽出され、関節の健康をサポートするサプリメントや健康食品の原料として広く利用されています。

  • 皮革: サメ皮(シャークスキン)として、財布やバッグなどの革製品に利用されることもあります。独特のザラザラした質感(楯鱗由来)が特徴です。

  • その他: 肝油はビタミンA源として、また工業用潤滑油などにも利用されてきました。近年では、化粧品原料などへの応用も研究されています。

7. 持続可能性と未来:アオザメと私たちの食卓

アオザメを持続的に利用していくためには、漁業管理と消費の両面からの取り組みが重要です。

  • SDGsとの関連:

    • 目標14「海の豊かさを守ろう」: 科学的根拠に基づく資源管理、混獲の削減、違法・無報告・無規制(IUU)漁業の撲滅などが求められます。

    • 目標12「つくる責任 つかう責任」: 水揚げされたアオザメを無駄なく利用し、食品ロスを削減することが重要です。未利用部位の活用も含まれます。

  • 持続可能な漁業の推進: 国際的な連携による資源評価と管理措置の強化、混獲回避技術の普及、トレーサビリティ(生産・流通履歴の追跡)の確保などが鍵となります。消費者は、MSC認証(海洋管理協議会)など、持続可能な漁業で獲られた製品を選ぶことも貢献の一つです。

  • 未利用部位の活用と食品ロス削減: 身やヒレ以外の軟骨、皮、内臓なども、加工技術の開発により、食品、健康食品、化粧品、工業原料などとして有効活用する取り組みが進められています。これにより、水揚げされた資源を最大限に活かし、廃棄物を減らすことができます。

  • 食文化としての継承と新たな価値創造: アオザメを地域の食文化として大切に継承していくと同時に、その淡白でヘルシーな特性を活かした新しいレシピや商品を開発し、アオザメの新たな魅力を発信していくことも重要です。適切な情報提供により、消費者の理解を深め、ポジティブなイメージを醸成していく必要もあります。

8. まとめ:アオザメを正しく理解し、美味しくいただくために

アオザメは、広大な海を回遊する美しい大型のサメであり、古くから世界中で利用されてきた重要な水産資源です。高タンパク低脂肪で淡白な味わいの身は、適切な処理と調理法によって様々な料理で美味しくいただくことができます。また、ヒレや軟骨、その他の部位も多様な用途に活用されています。

しかし、その一方で、漁獲圧による資源への懸念や、混獲の問題、食用時の鮮度管理や水銀蓄積といった注意点も存在します。

私たち消費者に求められるのは、アオザメという魚を正しく理解し、その恵みに感謝するとともに、持続可能な利用に関心を持つことです。信頼できる情報源から鮮度の良いものを選び、適切な下処理と調理でその美味しさを引き出し、食品ロスを減らすよう心がける。そうした賢明な消費行動が、アオザメという海の恵みを未来世代へと繋いでいくための重要な一歩となるでしょう。アオザメの持つ多面的な魅力を再発見し、その価値を正当に評価していくことが、これからの時代に求められています。

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